|
神の子のサインのやうに腹と背の赤き発疹一夜にて出づ
南北の筋を走れば北御堂南御堂を続きて過ぎぬ 雲黒き(会者定離とは知りながら)ならやま通りを西へと急ぐ
十四の夏にあなたと寝転んだすいくわ畑にコンビニが建つ
締切の資料提出し終りて新幹線でぬるい茶を飲む 暮れ始めまだ止まぬ雨ドトールの外を傘さす人の群れ行く
目の前を黄のTシャツが足早に横切り左前方に消ゆ
B型はきらひと言はれお昼には餡かけスパの大盛りを食ふ 新聞を丸めた筒でゲジゲジを追ひ詰めたたくファの音させて
カレンダーに予定を埋める 空白の日には宇宙を落下してみる
魂は虹の輪のなかくぐりぬけ向かうがはから我をてまねく 切断はしたくはないし外せなくなつた指環と生きるしかない
赤んぼが歯のない口で思ひ切り俺の指噛む いたいよ痛い
真昼間のソープオペラのキッチンで光を放つアルミニウムよ 戸袋と雨戸の隙間に挟まれたヤモリがずつと好きだつたこと
みづのない川底あるく 赤んぼの頭のやうな石がごろごろ
多摩川を渡りわたしは落ち着かない朝を東へ向かつてゐます 癇癪を起こすだらうか閾値を探るテストをそつとしてみる
滔々と理屈を述べる暗い目の姉に流れる我と同じ血
革命歌うたへぬ我といもうとが駅前で弾くおもちやのピアノ 一番に風呂を上がりし妹の不機嫌な髪いぢる指先
並び寝ね冬空見たるしもつけのいぶきの里のさしも草萌ゆ
たどり着くところなどない少しづつ失つてゆくさまよひながら 目覚めればわたしは既に知つてゐる世界が生まれ変はつたことを
僕たちの気分と何か違つてるやうな気がして削除してみた
ひかりごけかもしれないね僕たちのほのめくとほい未来ではなく 地下道の左側から右側へ流れるみづを飛び越えられぬ
乗り込んだバスは見知らぬ町をゆき月の出を振り返る僕たち
火薬庫に近づいていく僕たちの帽子のつばを汚す小鳥ら ひかがみの三日月型のあをあざをみてゐるうちに行つてしまへり
少しだけ真実を混ぜ疑ひを持たれたときの逃げ道とする
朝焼けの東の空を風に乗り列なしてゆく黒きものたち 決められずゆつくり歩く春あさき野辺の冷たき光のなかを
西風に震へて歩く戦線を縮小せむと考へながら
ホーチミンのホテルの部屋のタオル替ふるメイド愛しも吾子のやうなり ひとり住む母の窓辺を照らす月のうさぎが我の庭先を跳ぶ
倫理観麻痺してしまふ香水の強い匂ひに曝され続け
いやなことあつたからつてお早うに返事かへさぬ寺田よ寺田 指先のない手袋をはめた手がぶら下げてゆく白菜と葱
そのくらさまばらなはやし立ちしやがみはるか深くに伸びあがるもの
あるでしようまた落ちて生え埋めつくし小さな夏のそのにぎはひに オリーブの実は嫌ひです本籍は関東平野北端の町
コンビニで「不徳の致すところだ」と聞いた日の朝出会った僕ら
「容疑者を逮捕」のニュース聞きながらきみは隣りで目ぐすりを注す ああ、あれは初雪だろう いらいらとご飯を装う黒髪に降る
段ボールきちんと積んだリヤカーを道脇に停め男は憩ふ
洗濯を取り込む僕の背後から声かけてくる買ひ物帰り ホームから見上げる月を指差してきみは何かが足りないといふ
集落に秋の陽は照り白蝶の群れとぶ野辺に人の子をらず
僕たちの源流として流れ来る黒潮のうへ飛んで帰りぬ 僕たちは布団を干した窓辺から八咫の烏を狙ひ打ちする
ゆでぐりに歯をたて皮を僕たちの下着のやうにつるりとむいた
銀杏の匂ひがきらひ僕たちは一度も空を飛んだことない 月光に追われ駆けてく僕たちの行く手に赤いものが立つてる
困惑の景色は飛んでかさぶたは過失のごとく剥がれ落ちくる
冷静に話し合えない人がいて災いとまで言わないけれど ふゆぞらをあなたのうたが降ってくる凍える羽のようなふりして
振り向くなあなたが前に進むから黒煙のなかついて行くのだ
涙に濡れてゐるやうなメール机に放り投げ雨戸をしめる 雲のない秋の日の午後洗濯は乾いて竿にぶらさがつてる
シャンプーをするのはきらい目をきつくつむるときっと浮かぶ残像
終末の知らせだろうか鳴り続くランチの時間過ぎたあとにも 蘇りもう眠れないジュリエット達と遊んだ運河の記憶
階下より買ひ求め来しジーンズの裾の長さを試す声がす
妻の背にしがみつきつつ銀河とぶ夢見るオンブバッタとならむ 放置され背高泡立草が群れ僕の行く手をさえぎる荒れ地
縁側で産湯をつかひとうさんの笑顔のむかうに満月を見き
住所録めくってみたがアの欄もミの欄もまた空白である 耐えられず世界を消したくなったなら魔法の砂をふりかけなさい
怪しげな夢見て過ごす引退を目前にしたこのゆるい日々
いさぎよく白状しますきみにきた斎藤さんの手紙みました 蛾の群れが炎のように羽ばたいて世界地図から飛び立っていく
金魚鉢に金魚のいない理髪店おまけにくれた十円硬貨
麻切りの朝はさらしのたすき掛け白いご飯を三膳食べる かんからにろうそくをつけ転がせば縁側に蝋のにおいがこもる
窓際に立たないでくれぐんにゃりと溶けだす月を見てるんだから
夜明け前のどが渇いて目が覚めるイメルダの靴並べた部屋で この次の土曜は歌会で出掛けると気分の晴れ間に急いで告げる
読みかけの画面を閉じて書棚から心のかけら探して食べる
夕立が激しく降るとメール届き帰つて見れば既に上がりぬ 離反する心を残し旅に出る 餌付けするのはやめてください
さあああと近づいてきてさあああと遠ざかってく夏の自動車
暗闇をえらんで歩く目の眩む白い光に追いかけられて 持っていくものなどはない赤土は融け出したまま流されていく
足取りは軽くならない 鞄には思い出だけでないものを詰め
楽聖の生まれた町でジョン・レノン聴きつつ食べるザワークラウト 若草の妻が欲しがる海亀を何も持たずに捕まえに行く
|
||||